ルール炭田の日本人

越境者たち

展覧会

ルール炭田の日本人

越境者たち

Japaner im Revier I, Lithographie auf C-Print, 420x594 mm, 2023 © Kawabe Naho (VG-Bildkunst)

オープニング
2024年9月6日(金)19時

川辺ナホ(美術家)、徳山由香(現代美術研究者/キュレーター)による解説

1950年代から60年代にかけて、当時の西ドイツ、ルール地方で約500人もの日本人労働者が炭鉱労働に従事していた。日独政府間の取り決めで日本の炭鉱から3年間の期限付きで派遣された労働者達に加え、自主的にドイツへ渡航してきた人々もいた。こうした歴史的事実は、ドイツでも日本でもあまり知られていない。”労働とは、譲渡不可能で関税もかけられず国境を越え、誰の土地へでも持ち込める個人資産であ る”-海外渡航が容易でない時代に日本からドイツへ渡り、労働に従事した彼らは、哲学者ジュリア・クリステヴァのこの言葉を体現しているのではないだろうか。このような問題意識をもとにこの史実に着目したアーティスト川辺ナホは、文献調査やルール地方の炭鉱跡地、博物館、アーカイブなどの実地調査をするとともに、ドイツに在住する元炭鉱労働者とその家族へのインタビューを行った。調査の成果は、2023年4月に2冊組の冊子『ルール炭田の日本人』として発行された。*

今回の展示では、当時の新聞記事やかつての日本人労働者達が撮影した写真など、冊子未収の資料に加えてゲルゼンキルヒェンの炭鉱資料館(Initiativkreis Bergwerk Consolidation)の協力のもと、当時の炭鉱で使用されていた道具などを紹介する。これと並行して川辺が炭鉱調査から着想を得て制作した作品を展示する。川辺の作品では、木炭や炭粉を用いて、そのマテリアルの持つ性質によって、エネルギーの循環が象徴的に示される。歴史的資料がこうした作品が展示されることにより、単なる情報としてでなく、有機的な感覚を伴ってその意味を観客に訴えかけるだろう。20世紀半ば旅行や通信手段が限られていた時代に、かつてルール工業地帯として知られた地の炭鉱で働くために、9,000キロメートル離れた日本からやってきた人々-越境者たち-の歴史は、エネルギー問題や戦争で揺れ動く21世紀に生きる現代の私たちにも共通する問いを投げかけるだろう。

*この調査は2022年度公益法人小笠原敏晶記念財団の研究調査助成によって実現した。

本展覧会に合わせて、9月7日(土)14時から講演・ディスカッションが予定されており、さまざまな視点からこのテーマについて深く掘り下げていく。

© Kawabe Naho (VG-Bildkunst)
冊子概要

「ルール炭田の日本人」

2023年
2冊組
コンセプト 川辺ナホ
テキスト 川辺ナホ(インタビュー)、徳山由香
ドローイング、コラージュ 川辺ナホ
デザイン 尾中俊介(Calamari Inc.)

助成:公益財団法人小笠原敏晶記念財団

協力 コンゾリダティオン炭鉱会(ゲルゼンキルヘン)

2024年9月6日にWDR 3 Resonanzenにて、ダイアナ・ズルフォガリによるレギーネ・マティアス教授(アルザス欧州日本研究所CEEJA副会長、川辺ナホ(美術家)、徳山由香(現代美術研究者/キュレーター)のインタビューが放送されました。

インタビューはWDR3のサイトで期間限定で視聴可能です:

Ausstellungstipp: Japaner im Revier - WDR 3 Resonanzen (6.9.2024)

日時
2024年09月06日 ~ 2024年09月26日

場所
Japanisches Kulturinstitut
Universitätsstraße 98
50674 Köln

料金
Eintritt frei

協賛

共催